3. Where is ‘front’?

ロペ問題: なぜ、「手を染める」のに、「足を洗う」のか?
仮説: 手はstartを表し、足はgoalを表す




この「ロペ問題」の考察をさらに続けていたところ、研究室にワトソン君がやってきた。
彼のフルネームは「ルネ・ワトソン」である(エマ・ワトソンではない)。

「スケロック先生、英語では逆ですよ」(少しにやけている)

「というと・・・?」

「「手を染める」を英語で調べてみたら、"get one's feet wet" と出てきました。
つまり、英語では「足(feet)を濡らす」ことが「始まり」を意味します。」 (少しドヤ顔)

「日英で、ある意味「反対」なんだね」

「そうなんです。日本語では「手」なのに、英語では「足」なんです。どう説明しますか?」
(かなりにやけている)

そいうと、ワトソン君はお土産のお菓子をくれて、出て行った。
彼はよくお土産をくれる。一番のお気に入りは、中国で買ってきてくれたこの黄色い人形だ。



どこかでみたことのある人形だが、未だに思い出せない(青かったような・・・)。

でも、「今」思い出す必要がある情報ではない。

シャーロックも次のように言っている。

“Now that I do know it I shall do my best to forget it.”
(もうそれについて知ったから、何とか忘れるようにしよう。)

シャーロックは頭を情報が置かれている「屋根裏部屋」だと言っている。
そして、大事なことは、屋根裏部屋に漫然と情報を置いていることではなく、
適切なタイミングで適切な情報を取り出せるように「整理」されているかだ。

今、このワトソン君の問題を解くために必要な情報は、Steven Pinkerの 「前方(front)問題」だ。

次の図で、ジョンの前にいる人物は誰だろうか?(Who is in front of John?)



お分かりだろうか。

正解は1~4の全員だ。 なぜか?

それは、「基準」が変われば「前方」も変わるからだ。

・ジョン(が向いている方)を基準にすれば、ジョンの前にいるのは1の人物になる。
・横の列の先頭を基準にすれば、ジョンの前にいるのは2の人物になる。
(この場合、ジョンの背後にいる人が、ジョンの前になれるわけだ)
・縦の列(十字架が前)を基準にすれば、ジョンの前にいるのは3の人物になる。
・話し手 (speaker)を基準にすれば、ジョンの前にいるのは4の人物になる。

つまり、空間における「前後」は相対的なものであり、何を基準にするかで変わる。

もうお分かりかだろう。
何を基準にするかで、「始め」も変わる。

例えば、一歩踏み出す場合、下(地面)が基準になるため、「足」が先頭になる。
この場合、「足を出す」ことが「開始」になる。

ちなみに、『英辞郎』に "get one's feet wet"の語源が次のように書かれている。

get one's feet wet 
◆【語源】海で泳ぐのを怖がる子どもに向かって、とにかく「足だけでもいいから水につけてみなさい」と助言するところから。

つまり、「下」が基準になっているから、この場合は「足」が「前」になる。
get one's feet wetは日本語でいえば「一歩、踏み出す」になるのだろう。

実際、英語でも「何かをやってみる」という意味で try one’s hand (at~)という言い方もある。
まさに「手(hand)を染める」ということだ。

前後関係は相対的なのだ。

よって、手が先にも、足が先にもなれる。



ワトソン君はいつもいい問題提起をしてくれる。

もう少し、この問題について考察を進めてみよう。

(to be continued)

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プロフィール
スケロック・ホームズ
スケロック・ホームズ
コンサルタント言語探偵 (自称)

我々が言葉を用いるときに、暗黙のうちに、何らかの規則に従っていることは明らかである。しかし、一体どんな規則に従っているのであろうか?たとえば、
「人の悪口は言わない!」の「人」は「他人」のことである(=「他人」の悪口は言わない!)
「人の悪口を言うな!」の「人」は「自分」のことを指せる(=「俺」の悪口を言うな!)

なぜ、「人」が「他人」も「自分」も指せるのかを説明することは難しいが、日本人ならいとも簡単に使える。

規則をはっきり意識できない、説明できないのに使える。

ここに「ヴィトゲンシュタインのパラドックス」が存在する。

言語は面白い。そのなぞ解きはさらに面白い。

The only promise a puzzle makes is an answer.

誰に頼まれることがなくても、言語の謎を解明し続けるが、依頼はいつでも受け付けている。

There's nothing more hazardous to my health than boredom.