日本語の大きな特徴は、文字を4つももつことだ。
(『世界の文字の起源と日本の文字』 世界の文字と言葉入門1 より)



文字をつくることは容易ではない。
音という聴覚のものを視覚化しようとしているのだから、そもそも無理がある。
(『<ひらがな>の誕生』 山口謠司 著より)



その無謀なチャレンジに人類は挑んできた。
そのことに敬意を払い、文字の研究を開始しよう。


1. The Roman Letter Problem

Q1: そもそも4つも文字が必要なのか?

日本語の4つの文字はそれぞれ特徴が異なるので、違った使い方ができる。
大きく分けると「漢字」「カタカナ/ひらがな」「ローマ字」の3つに分けられる。

① 文字自体が意味も表す 「漢字」
漢字は基本的に絵をシンボル化してできたものでなので、漢字をみれば「何を表しているか」という意味までわかる。
(『漢字のなりたち図鑑』 円満字二郎 著より)



② 音だけを表す 「カタカナ/ひらがな」
カタカナとひらがなは漢字を崩して作った文字で、音だけを表す

カタカナ漢字の一部を使用 (漢字の「片」一方を使っているから「片仮名」という)
ひらがな漢字全体を崩したもの



カタカナとひらがなは漢字をさらに崩したもので、文字自体には意味がない



③ 音の最小単位(音素)を表すローマ字
ローマ字は英語の「アルファベット」を輸入して使っている文字である。
ローマ字の大きな特徴は「カタカナ/ひらがな」が表す音をさらに分解できることである。
(『日本のローマ字と点字』 世界の文字と言葉入門15 より)



ひらがなの「か」をローマ字で書くことで、「か」は[ k + a ] という2つの音でできていることがわかる。
(『はじめてのジョリーフォニックス-ティーチャーズブック』 より)



以上のことをまとめると、4つの文字の関係は次のようになる。
(『新・ふしぎな言葉の学』 柿木重宜 著より)



文字は絵的な記号から、さらに音声だけを表すようになると応用範囲が広くなる。

この点について、漢字の「女」とひらがなの「め」を例に見てみよう。
(『英語の文字・綴り・発音のしくみ』 大名力 著より)




文字は音だけを表すようになると、文字それ自体の意味はなくなるが、その分、組み合わせていろいろな語をつくる「応用の幅」が大きくなる。
このことをまとめると、次のようになる。



日本語の4つの文字の関係がわかったところで、「ローマ字問題」について考えてみよう。

Q2: ローマ字とアルファベットは何が違うの?

結論からいうと、アルファベットは英語を表す文字であるが、ローマ字はあくまで日本語の音を書き表すための文字である。

外国の人が日本語を学ぶ場合、漢字やひらがななど複数の文字があるため、とても読めたものではない。
そのため、アルファベットの文字を利用したのがローマ字である。



つまり、ローマ字はあくまで日本語を書き表したものであるため、英語のアルファベットとは「別もの」である。
(『ピーター・バラカン式 英語発音ルール』 より)



とくに、英語は子音だけを表す文字があるが、ここが日本語と大きく違う点である。



さらに、ローマ字について見ていこう。

Q3: なぜ、ローマ字には「ヘボン式」と「訓令式」の2種類あるの?
(『小学校で英語を教えるためのミニマム・エッセンシャルズ』 酒井 (2017)(編著)より)



ヘボン式外国の人が日本語を表記するためのもの
訓令式日本語の文字をローマ字にするという意図でつくられたもの

つまり、「訓令式」は日本人どうしがローマ字でやり取りするために、50音図に合うように整理されたものなのである。



ここで注意すべきことは、上の2つだけでなく、いろんな種類のローマ字があったということである。
まず、ローマ字の歴史をみておこう。



つまり、日本に来た外国人の言語に合わせたローマ字が存在していたわけである。



このように、ローマ字は過去の先人たちの涙ぐましい努力によってつくられた文字なのである。



文字を追求することは、ことばの本質を理解することになる。

(to be continued)


**** <UGOA:動くアルファベット> ****

アルファベットも絵(シンボル)を崩してできたもので、漢字を崩してひらがなができたのと似ている。
(『英語解剖図鑑』 原島広至 著より)



また、アルファベットには長い歴史があり、とくにフェニキア文字の影響が大きいとされている。



詳細は改めて扱うことにするが、1つ1つのアルファベットの歴史(成り立ち)と発音の仕方をまとめて、「動くアルファベット」を作成したサイトがある。

その名は「UGOA」。作成者は映像編集のプロでもあるハーバー・ゴールドくんである。



ゴールドくんとは、通称N館の自称ベーカーストリートN230でよく一緒に言語の研をおこなった。
UGOAはその時に作成したものである。



ゴールドくんの「UGOA(動くアルファベット)」を見たい人は、こちら ↓

https://ugoa-alphabet.studio.site/

(*ゴールドくんのアルファベットの研究に関しては、改めてとりあげる予定である。)

今年もあの「赤レンガ連盟」の夜会が開かれた。

コロナの影響もあり、「赤レンガ倉庫」からのオンライン配信であった。



告知もなく不定期に開催され、招待された者だけが参加できる謎の夜会。
今年の「言語の研究発表」から、英文法に関する研究を紹介しよう。


2. Frequently used English grammar

今回とりあげるのは、Takizawa (2022)のFrequently used English grammar (頻出英文法) の研究(別名「出る順 文法」)である。

この研究では、大学受験の「共通テスト」の分析を通して、reading試験に必要な英文法を分析している。



受験英語に関しては、いわゆる『出る単』(出る順 単語)や『出る順 熟語』などはあるが、『出る順 英文法』はない。
このありそうでない『出る文(英文法)』に目をつけたのが、今回の研究である。



先行研究として、金谷(編著) (2015)の調査結果を紹介している。
(『中学英文法で大学英語入試は8割解ける!』 金谷憲 編著より)



簡潔いうと、「中学校の英文法で大学入試の8割は解ける」というものである。

ただし、この金谷(編著) (2015)は共通テスト以前の試験分析である。

そのため、Takizawa (2022)は新たに導入された2年分の「共通テスト」を分析し、頻出英文法を調べている。
結論からいうと、共通テストでも全体的に中学校の英文法が使われている

時制を例にとって見てみよう。

まず、中学校英語でお馴染みの現在進行形と現在完了形は、共通テストでもよく使われている



一方、中学校では(ほとんど)出てこない過去完了進行形、未来完了(進行)形は、共通テストにも使われていない



Takizawa (2022)では、文法項目だけでなく、それがどのような意味・用法で使われることが多いかについても調査している。

たとえば、現在進行形の場合、「一時的動作」の意味で使われることが圧倒的に多い
もう一度、関連部分だけ取り上げてみよう。



つまり、文法書などに載っている「終わりに向かっている(完結する瞬間への接近)」や「近未来」の用法は、共通テストではほとんど使われていない。(『わかるから使えるへ 表現英文法』 田中茂範 著より)



ただし、どちらとも解釈できる場合もあり、その場合は「ダブルカウント」となる。
たとえば、次の文は共通テストからとったものであるが「一時的動作」とも「近未来」ともとれる




Takizawa (2022)の最終的な分析結果を示すと、以下のようになる。




この結果に基づき、以下の提案がなされている




以上がTakizawa (2022)の研究の概要である。


≪コメント≫

1.定着問題
「高校1年生では中学校の英文法を徹底的にやる」との提案は、いかに文法を「定着」させるかという問題と関係してくる。(金谷(編著) (2015)より)



・文法に時間を費やすことは、英語学習のモティベーションを下げてしまわないのだろうか?
・数学の説明と英文法の説明は同じように扱えるのだろうか?
・英文法をしっかり理解させるためには、どのように説明したらいいのだろうか?

2.スピード問題
文法を知っているだけでは不十分で、「ある程度のスピードで理解できる」ことが重要という指摘もある。(『英語教育』 2022年2月号より)



今回の研究でも、「テストで使える英文法」という観点から、「長文の流れのまま英文を理解できる文法力」を想定している。

「ある程度のスピードで処理できる文法力」というテーマも興味深い。

「赤レンガ連盟」の研究については、今後も不定期に紹介していく。




***** <補足コメント: オリジナリティー 2>****

研究においては、過去の研究を自分なりに分かりやすく要約してみることが大事になる。
(『理系的アタマの使い方』 鎌田浩毅 著より)



「オリジナリティー(独創性)」は「クリエイティビティ―(創造性)」の積み重ねの先に現れるともいえる。

そのため、調べた情報をもとに自分の考えをまとめ言語化することが重要となる。

この点については、こちら ↓ の資料を参照

https://note.com/yuusyoo174/n/neea9076eb40c?magazine_key=m22121398c876


14. Secondary Predicate

北京オリンピックが終わった。

コロナを吹き飛ばすほどの熱戦が繰り広げられ、連日興奮してしまった。

個人的には、次の2つがベストシーンである。



戦いを終え、クールダウンしながら戦況をするどく見つめる高木さんはカッコよかった。

また、レース前にグータッチしている小平さんの姿もグッとくるものがあった。
グータッチの相手はもちろん、コーチの結城先生である。

実は、自分たちの「北京オリンピック」も開催されていた。

それは、『英文法が身につく英語ことわざ100選』という本の執筆である。
ちょうど北京オリンピックが終わるころまでに原稿を仕上げないといけないという戦いであった。

青あざ(青字チェック)と血みどろ(赤字チェック)だらけになりながらの作業であった。



それでも、何とか仕上げることができ、発売されることになった。
https://twitter.com/i/web/status/1494942750482964480



今回は「言語学IPPONグランプリ」のようであった。

英語のことわざが「お題」として1つ与えられ、そこからどう英文法の説明をするかが問われていた。

今回は自分が書いた原稿の1つをとりあげる。



この文で気になるのが、形容詞のwise (賢い)の使い方である。
普通、形容詞は a wise man のように名詞を修飾したり、He is wise.のようにbe 動詞と使われる。
しかし、上のwise は独りぼっちでポツンと文末に置かれている

実は、このwiseは「文を背負った」形容詞なのである。



つまり、while he is wiseという文を代表してwiseだけが残っている

なぜ、そのような省略が起こるのかというと「予測可能」だからである。
他の例で見てみよう。



このような「文を背負った」形容詞は、『鬼滅の刃』の映画に出てくる名セリフの英訳にも使われている



「文を背負った形容詞」は文を簡潔にできる便利な表現なのである。

なお、分詞構文でも同じような省略が行われている。




今回の北京オリンピックについて、小平さんは次のようなコメントを残している。



このことわざ本もまだ何かを成し遂げたわけではないが、英語のことわざと向き合いながらやり遂げたという想いはある。

カッコよくまとめたが、要は「番宣(本の宣伝)」であった・・・
(なかなか自分の中で「Ippon」がとれず苦労しながら完成させたので、宣伝させて!)




****「日英比較:目は口ほどにものをいう?」 ****

次のことわざは、今回の本ではとりあげられていない。
(『日英ことわざ事典(新版)』山本忠尚 監修より)



実は、目と口に関しては、日本人と欧米人で違いが見られる。
具体的には「日本人は目を重視するが、欧米人は口を重視する



このことは顔文字の違いにもよく表れている。
日本語の顔文字は目に特徴があるが、欧米の顔文字は口に特徴がある



ちなみに、上の「目は口ほどにものをいう」に対応する英語のことわざを「お題」にして英文法について語るなら、どのように「料理」できるだろうか?

是非、考えてみてほしい。 

<大母音推移:母音の変化>



(大母音推移については、The valley of ear (ch. 20) を参照)


22. Lady GaGa (Paper Gangsta)

英語のアルファベットの読み方には「隠されたルール」がある。



とくに、子音の読み方に注目してみよう。
たとえば、bは両唇を閉じて出す音である。
(『英語の発音トレーニングBOOK』 明場由美子 著より)



口を閉じるだけなので、b自体では音が出ない
では、なぜbは「ビー」と読まれるのだろうか?
(『最強の英語発音ジム』高山芳樹 著より)



その答えは「母音のeをつけている」からである。
つまり、bのままでは発音できないので、母音のeをつけてbe(ビー)と読んでいる

これは、日本語の「ん」がそのままでは発音しづらいので、母音の「う」を入れて「うん」と読むのと同じである。
(『英語の文字・綴り・発音のしくみ』大名 力 著より)



英語のアルファベットの子音の場合は、「be」のように 母音のe をつけて発音しているわけである。

しかし、eは後ろにつくパターンだけではなく、前につくパターンもある
たとえば、f だけだと「フ」のような音だが、eが前につくため「エフ」と発音される。



では、eが前につくパターンと後ろにつくパターンには何かルールがあるのだろうか?

実は、ここには次のようなルールがある。




ここで、もう1つの謎がある。
それは、英語はいわゆる「ローマ字」読みをしないということである。

実際、アルファベットをもつ他の言語はローマ字読みをする
ドイツ語と英語のアルファベットの読み方を比較してみよう。



これは、英語では大母音推移が起こり、[e](エ)は1つ上の[i] (イ)と発音されるようになったからである。



そのため、英語ではB(be)はローマ字読みの「ベー」ではなく「ビー」になるのである。

今回は、大母音推移の影響を受けている「エに近いa」が使われている空耳を取り上げる (Lady GaGa のPaper Gangsta)。



ここでは、manの発音に注目してほしい。
manのaは大母音推移の影響で「ア」ではなくエに近い「ェア」と発音される。




このようなa が使われている単語は多い。
(『怖いくらい通じるカタカナ英語の法則』池谷 裕二 著より)




実際に確かめてみたい人はこちら ↓

https://twitter.com/pb4SdnU18nRwev1/status/1482909092788436994?cxt=HHwWhIDQ3dH9rJQpAAAA

≪補足映像資料≫

日本語が英語に聞こえるという「逆空耳」(B’z の「Ocean」)。



B’z の「Ocean」のどの歌詞が上の英語に聞こえるか、実際に確かめてみてほしい。

なお、上の逆空耳英語にあるbeneath のea(エとアの中間の音)が「イ」と発音されるのも、大母音推移の影響である。



なお、eがつかない子音のアルファベットの読み方もいくつかある

たとえば、W はもともと英語になかった文字で、Uを2つ使って表していたため、「ダブルU」から「ダブリュー」と読まれている。
(『語源でわかる中学英語』原島広至 著 より)



このテーマについては、さらに追及していこう。


(to be continued)

**** <補足コメント> ****

空耳サークルは10周年を迎えた(はず)。
たっくん(初代部長)とタモさんに会いに行ったことは懐かしい思い出である。



自分もあの頃は若かった(はず)。
空耳サークルは20周年に向け、部員(および自主製作空耳の役者)を募集中。

私の研究室はN館(通称) のベーカーストリート(自称)の230Bであるが、この近くになぞの「赤レンガ倉庫」がある。



この赤レンガ倉庫では、年に1回、不定期に「夜会」が行われている。

その夜会の名は「赤レンガ連盟」。

赤レンガ連盟では「言語の研究発表」をしているが、告知もなく招待された者だけが参加できる。
この章では、赤レンガ連盟で行われた研究発表を紹介していく。


1. Meaning category

今回は、Tsuzuku (2019)のMeaning category (意味カテゴリー) の研究(別名「みんなの卒論」) をとりあげる。

この研究では、英語と日本語の単語の意味のズレを扱っている。
たとえば、必ずしも「drink=飲む」は成り立たたない



このような意味の違いは、学校でも教わることはほとんどない。
そもそも、日本人の英語学習者はこのような意味の違いを意識しているのだろうか?



もし、英語学習者が状況に応じて英単語を使い分けているなら、どのような基準で使い分けているのだろうか?

たとえば、highとtallの使い分けについてみてみよう。



ここにあるように、highは上のほうを見て「高い」という場合に使われ、tallは全体を見て「高い」という場合に使われる。

そのため、「高いビルが太陽の光を遮っている」という状況は、全体をみるtallが使われる


 
highとtallを適切に使い分けるには、このようなネイティブがもつ基準を知っていないといけないことになる。

しかし、日本人の英語学習者はネイティブと同じ基準をもつことは可能なのだろうか?

Tsuzuku (2019)の研究は、まさにこの問題をとりあげ、実験を行っている。

ここでは、wearの実験を見てみよう。

次の例文で、適切な動詞はどれだろうか?(本来のテストは9問ある



このテストは「wearがどこまで使えるか」がわかっているかを調べるものである。



実は、上の図のすべてにwearが使える

このテストを英語科の学生に行なった結果を以下に示す。



この結果が示すように、perfume (香水)やringなどのアクセサリーに対してwearを使わないと判断した学生がいることがわかる。






Tsuzuku (2019)では、このようなテストを複数の語に対して行い、以下の結論を示している。






以上がTsuzuku (2019)の研究の概要である。




≪コメント≫

1.ネイティブが「無意識に知っている」基準を正確に知ることは可能なのか?実際、ネイティブでも明確に説明できないという指摘もある。(『くよくわかるメタファー』 瀬戸賢一 著より)




2.日本人学習は「ネイティブとは違う基準をもつ」という指摘は「中間言語仮説」と同じものであり、興味深い。(『日本語を教えるための第二言語習得論入門』 大関浩美 著より)




「赤レンガ連盟」の研究については、今後も不定期に紹介していく。




***** <補足コメント: オリジナリティー>****

論文には「オリジナリティー(独創性)」が求められる。
でも、オリジナリティーなど、そう簡単に出せるものではない。

まずは、過去の研究を最大限に活かす「クリエイティビティ―(創造性)」が大事になる。
(『理系的アタマの使い方』 鎌田浩毅 著より)



なお、バラバラの「点」である知識につながりをつけることでアイデアは生まれる

この点については、こちら ↓ の資料を参照

https://tanaka0871.naganoblog.jp/e2466406.html

言語探偵(自称)の私には、ことばの謎を一緒に語り合う氷浦京介という「戦友」がいる。
定期的に会ってことばについて議論を交わしているが、以前、氷浦氏と「伝説の鶏肉屋」に行った。



何を隠そう、私は大の鳥好きなのである。
ここの「伝説の鶏肉」は絶品で、しかも大きい。



キャベツの量もサッカーの大迫選手なみに半端ない。
まさに、chicken on cabbageというのか、chicken by/beside cabbageとうのか、、、

実は、英語は「前置詞言語」といわれるくらい、前置詞を多用する。しかし、前置詞をマスターするのは非常に困難である。

今回は、前置詞についてみていく。


13. preposition ‘on’

問題: なぜ、前置詞は「難しい」のだろうか?



上にあげているのは、日本人にとってとくに難しいとされる文法項目である。
((『英語指導における効果的な誤り訂正』 白畑知彦 著より))

前置詞3年、冠詞8年」といわれることもあるくらい、前置詞は冠詞と並んで習得が難しい。

でも、前置詞は「簡単な」コアイメージ (core image)で表すことができる

たとえば、on なら次のようになる。


 
onは上のようなコアイメージで表すことができ、基本的には2つのものが「接触」しているという位置関係を表す。

非常に「簡単」である。

では、何が難しいのかというと、「接触」の捉え方である。
「接触」といっても、それが表す状況は実にさまざまである。



さらに、「上からぶら下がっている」状態にもonを使う



このように、「上に置いてる」も「壁にかかっている」も「上からぶらさっがっている」もすべてonでいえる。
なんとなく「ざっくり」した感じがしてしまうが、この「感覚」は合っているのである。
(『くらべてわかる英文法』 畠山雄二 (編) より)



このように、英語に近いオランダ語では「違う前置詞を使う」ところを、英語ではon 1つで済ませてしまうのである。



上の「周囲」というのは、a ring on the finger (指にはめられた指輪)のように使われる on である。

さらに、日本人からすると「これはonじゃないの?」という「感覚のズレ」も見られる。
(『ネイティブが教える ほんとうの英語の前置詞の使い方』 デイビッド・セイン 著より)



このように、「接触」と捉えられる可能性がある場合でも、ネイティブは必ずしも「接触」とは捉えない

このことからも、実際にonを使えるようになるには、「接触」というコアミーニングだけでなく、どの状況を「接触」という位置関係で捉えるかというネイティブの感覚も知っておく必要がある。

以上のことをまとめると、次のようになる。



このことから、前置詞には以下の2つの側面があるといえる。

① コアイメージを知っていると、ある程度の「予測」ができる

次の2文の違いは何だろう?



この両者の違いは、前置詞のonとinのコアイメージの違いによる。
(『英語の意味とニュアンス』 吉川洋・友繁義典 著より)



つまり、onの場合はinの場合よりも草が短いことがonのコアイメージから予測できる

② ネイティブの感覚(捉え方)は覚えるしかない



正解は「ネイティブはonとwithのどちらも使う」である。

つまり、ネイティブは「お金をもっている」という状況を「お金が話者に接触」していると捉える感覚をもつ
ただし、所有を表すwithのほうが「正しい」とされているようであるが、口語ではよりくだけたonのほうが好まれる。



このように、「何を接触と捉えるか」は感覚的な部分であるため、ネイティブの間でもonを使うかどうかで揺れる場合がある

そして、このようなネイティブの感覚は、ある意味、英語に触れながら覚えるしかない。

ビジュアル化された前置詞のコアミーニングはわかりやすい。
でも、ビジュアル化してしまったからこそ抜け落ちて見えなくなっている前置詞の「姿」もある。

ちょうど、小説が映画化なりアニメ化されることにより、小説でしか伝えられないものが映画やアニメでは削ぎ落とされてしまうように…

前置詞については、さらに考察を続けていこう。

(to be continued)


***** <補足コメント:冠詞問題>****

「助手」のルネ・ワトソンくんも「伝説の鶏肉」が食べたいというので、一緒に食べに行った。



この場合、He ate chicken.であって、He ate a chicken.ではない。
(この点については、The adventures of Sukelock Holmes (Cat in the rain )を参照:http://tanaka0871.naganoblog.jp/e2476821.html



冠詞も基本的な意味は簡単であるはずなのに、なかなかマスターできない。

実は、冠詞も前置詞と同じく、「ネイティブの感覚(捉え方)」を理解するのが難しいのである。
たとえば、次の「総称問題」はどう考えればいいだろうか?



確かめたい人は、こちら ↓

https://note.com/yuusyoo174/n/n533082aea655

冠詞についても、さらに考察していこう。

13. Coordination

東京オリンピックが終わった。

無観客であったが、逆に選手たちの真剣勝負がより伝わってきて、迫力があった。

個人的にはフクヒロペアの激闘が見れてよかった。



勝った中国ペアがフクヒロペアに歩み寄り、お互いの健闘を称える姿もグッとくるものがあった。

実は、自分たちも「東京オリンピック」に向け勝負をかけていた。

それは、The Cambridge Grammar of the English Language (CGEL)の翻訳を東京オリンピックまでに全巻刊行という戦いだ。
(The adventures of Sukelock Holmes (CGEL)も参照:http://tanaka0871.naganoblog.jp/e2433895.html

このプロジェクトに参加させてもらい第4巻を訳したが、無事、東京オリンピックまでに全巻の翻訳が刊行された。



21世紀最大の英文法書といわれるだけのことはあり、「すべてを網羅」していると言っても過言ではない。
(サイズも規格外で総ページ数1800ページ超え)。

たとえば、普通の文法書ではサラっと扱われる接続詞や句読点についてもがっつり扱われていて、翻訳本(『英文法大事典』第8巻)で300ページほどある。

今回はandをとりあげてみよう。

andは「順接」といわれ、「何かと何かを対等につなぐ」働きをする。
(『英文法キャラ図鑑』 関正生 著より)



andは「そして」と訳されるが、「そして」と訳せないandもある

ここでは、英文法大事典から and の2つの用法を紹介する。

① If(条件)を表すand



とくに、「命令文 and ~」のときに、andがifのような意味を表す。

この「命令文 and 命令文」は「公式」のように扱われることが多いのは、andがifを表す「特別感」があるからだろう。
(『徹底例解 ロイヤル英文法』より)



② but(逆接)を表すand



これらの例では、andは「順接」という基本的な意味を放棄し、もはやbutのようになっている

andとbutの境目は意外とグレーなのである。



この英文法大事典シリーズの完成はゴールではなく、ことばの新たな探求への始まりなのである。

カッコよくまとめたが、要は「番宣(本の宣伝)」であった・・・
(「ワンチーム」になってオリンピックを目指すアスリートのように頑張って完成させたので、是非、全国の図書館に入れてほしい!)




****「ヴィトゲンシュタインのパラドックス」 ****

アメリカの大学院で修士号を取った卒業生が、一時帰国で遊びに来てくれた。



学生のころからすでに大学院生のような雰囲気を醸し出していたため、「ベテラン」という愛称がついていた学生だ。
これからまたアメリカに戻り、博士号を取得するとのことであったが、すでに博士号を取得しているかのような風格を漂わせていた。

そんな「ベテラン」も、「逆接」のandには手を焼いていたようで、以前、こんな ↓ ラインをもらっていた。



今では「感覚」で分かるようになっているが、説明はできないとのこと。

わかるが説明できない」-これを「ヴィトゲンシュタインのパラドックス」という。



ことばはミステリアスで面白い。

なお、逆接のandの補足資料は、こちら ↓

https://note.com/yuusyoo174/n/n8d30f566c810

前回 (The sign of the language (Q12))の Quiz2 (ジョーク問題)の答え。




13. Countable vs. Uncountable

次の2つの文には、どんな意味の違いがあるだろうか?



上の文は a があるかないかだけの違いであるが、イメージされるものは大きく異なる。
(『日本語で理解する英文法』 川村健治 著より)



コーヒーには「形」がない。果てしなく続く液体である。
つまり、「決まった形」がないため、aをつけて「1つ」と数えられない

一方、カップなどの容器に入った状態だと、a coffeeとなる。
ただし、この場合もコーヒーは数えていない。
あくまで「コーヒーが入った容器 (a cup of coffee)」を数えている

実際、a coffee的な言い方はスタバなどのお店で注文する場合に限られる。
さらに、同じ飲み物でもwineはa wineとなることがほとんどない
(『見える英文法』 刀祢雅彦 著より)



paper(紙)やbread(パン)などにも同じことが当てはまる。
紙やパンなどには「決まった形」がないからである。
半分に切っても「紙/パン」だし、サイズも自由に変えられる。



そのため、paper自体を数えるのではなく、A4、B4などのように紙を区切ったもの(=ピース)を数える ({a piece / two pieces}of paper)。

実は、coffeeやpaperなどの物質の数え方は日本語の数え方と同じである。
(『英語冠詞の世界』 織田稔 著より)



これに対して、「本」や「人」などは決まった形がある
事実、半分だけしかない本や人は、もはや「本」や「人」とは呼べない



このような決まった形があるものには aや数字を直接つけることができる (a book / two books)。

「数えられる」ためには「決まった形」が必要なのである。

逆にいえば、a がついた場合は「全体」がイメージされる。



an eelだと「ウナギ一匹(=全体)」になるが、eelだと「ウナギの身(=一部)」になる。

日本語でも「一匹の鮭を食べた」というと、鮭を丸ごと食べたという意味になる。



この日本文の感覚は、英語ではa の有無で表される。



この点に関連して、今回は日本語の数え方に関する問題を取り上げる。


<Quiz 1>

日本語では「人」を数えるときに、なぜ「3の人」のようにわざわざ「人」を使うのだろうか?



英語では「人」や「本」のような数えられるものには、aや数字をつけるだけである。




<Quiz 2>

次の数式に隠されている言葉遊びは何か? (『日本語あそび学』より)




*「答え」は後日、「コメント」欄に提示 (次のQuizの冒頭に書く場合もある)


**** <補足コメント> ****

実写版「カオナシ」。



絶妙な首の傾き度がポイント(顔はあるけどカオナシというのもポイント)。

カオナシは顔もないし、サイズも変わるし、下半分がなかったりする。
カオナシはpaperみたいなやつだなぁ。



17. My experiences for about 10 years

世の中にはボケの人間が多く、突っ込みの人間が少ない。

そのことをこれまでの経験から「分析」しているのが、この ↓ 本である。



クリームシチューの上田さんは、突っ込みの人間が少ない理由は昔話にあると指摘している。



そして、実際の「昔話」に突っ込みを入れる「実演」を披露している。

この「昔話突っ込み」が面白い。

「桃太郎」の冒頭部分への突っ込みを見てみよう。



的確な突っ込みである。

その中で言語学的に面白いのは、この ↓ 突っ込みである。

こんなに普通なのは「かもめはかもめ」以来だよ!

この「かもめはかもめ」というのは「かもめ=かもめ」という当たり前のことを言っているだけである。

なぜ、このような文が存在するのだろうか?



実は、この「かもめ」文の2つの「かもめ」は同じものではない

まず、「かもめはかもめだ」は「あの男は画家だ」や「花子は病気だ」のような文と同じく、「AはBだ」という文である。



この「AはBだ」文では、Aは実際にいる「かもめ」や「あの男/花子」を指しているが、Bは具体的な何かを指すのではなく、Aの状態や性質(属性)を表している



つまり、「あの男(A)は画家(B)だ」の「画家」は実際にいる画家を指しているのではなく、「画家という状態にある=画家を職業としている」という意味になる。



そうすると、「かもめ(A)はかもめ(B)」の場合も、最初の「かもめ」は実際にいるかもめを指しているが、2つ目の「かもめ」は「かもめの性質をもつ」ことを表している。よって、次のような意味になる。

かもめはかもめ = かもめはかもめであって他の鳥とは違う。

このように、「かもめ」文の2つの「かもめ」は同じものではない。

そして、このような一見「同じ」語を繰り返すだけの無意味な文はむしろ強い意味を表す

俺は俺だ = 俺は俺であって他の人と同じではない。

上の文は一見「俺=俺」という無意味な文であるが、「俺は人と比べることなく、自分らしく生きる」という強いメッセージをもつ

よって、今回の仮説はこれ ↓ だ。



なお、「A (具体的な人/モノ)-B(状態・属性)」という図式は、英語のbe動詞文にも当てはまる



上の文でも、be動詞 (is)の後のa studentは具体的な学生(ある学生)を指しているのではなく、「学生という状態にある=(社会人ではなく)一学生である」という意味になる。

「AはBだ」や「A is B」は単純な文であるが、奥が深いのである。

ちなみに、今回紹介した本は基本的には上田さんが経験したことを書いたエッセー集である。
その中でもとくに「えなりくんの英語力」について書かれたエッセーは面白い。

こんな ↓ 感じである。



的確な突っ込みは笑いをつくり出すことがよくわかる本である。


(to be continued)


****補足:「AはBだ」文のもう1つのパターン****

数学の方程式ではxの値を求める。

「AはBだ」文には、Bに「答え」を入れる「方程式パターン」もある

たとえば、「花子殺しの犯人(A) は あの男(X)だ」は、次のようになる。




このパターンは「what-wherer問題」と関わってくる。




「ブラジルの首都はどこですか?」は基本的にwhereではなくwhatになる

これは、「ブラジルの首都はxだ」のパターンであるからだ。




なお、Xの値を求めず、単に「どのような場所にあるか」を聞いているのなら、whereが使われることになる。



*what-where問題については、こちら ↓ も参照

http://tanaka0871.naganoblog.jp/e2389105.html

*今回の「AはBだ」文の詳細な分析はこちら ↓

https://www.amazon.co.jp/clouddrive/share/kgemaOFVBg060XboIFOvNIG7khXWFDvuaCNpQZ2w7dK

<新年特別編>

信キャンパスストリートには相変わらず人がほとんどいないが、
シンボルの大きな木(通称「この木何の木」)は健在である。




今回は、「お年玉」特別企画として、英語以外の言語の「空耳」をプレゼントする。


21. Gipsy Kings (Bem, Bem, Maria)

第1回空耳アワード(1993年)に選ばれたのは、ジプシー・キングスの「ベン、ベン、マリア (Bem, Bem, Maria)」である。



この歌はスペイン語である。
空耳の初代チャンピオンは英語ではなかったのである。

言語はそれぞれ独特の「リズム」をもつが、大きく3つに分けられる。
(『語形成と音韻構造』 窪園晴夫 著より)



① イントネーション (intonation) 言語: [ 強弱リズム ] 

英語に代表される「イントネーション言語」では、音に強弱がつけられる

例えば、英語では強勢(ストレス)が置かれる場所が違うと品詞が変わる
(『日本語アクセント入門』 森松晶子ほか 著より)



このイントネーション言語の大きな特徴は母音が変わってしまうことである。
これは、強く発音されない母音は弱々しい音になるからだ。



「この弱く発音される母音」は発音記号では「ə」で表される。
このeをさかさまにした記号は「シュワ (schwa)音」とよばれる。
(シュワ音についてはThe valley of ear (ch. 6)を参照)


② ピッチ (pitch) 言語: [ 高低リズム ] 

日本語に代表される「ピッチ言語」では、音に高低をつけ単語を区別する。
たとえば、「箸」と「橋」では発音が違う



ちなみに、ピッチは方言で異なることもある
たとえば、大阪の「雨」の発音は東京では「飴」になる。



(方言についての詳細はこちら ↓)

https://kotobaken.jp/events/news-200820-01/


③ 声調 (トーン:tone) 言語: [ 曲線リズム ] 

中国語に代表される「声調(トーン)言語」では、音の波長で単語を区別する。
このような音の波長は「ピッチ曲線」とよばれるが、中国には4つのパターンがある

たとえば、「マ」はピッチ曲線の違いにより4つの意味をもつ



ちなみに、この4つのパターンは「四声」といわれる。



以上みてきた3つの分類はあくまで「大きな分け方」であり、常にきっちり3つに分けられるわけではない

たとえば、スペイン語は基本的に英語と同じく強弱リズムをもつが、日本語に近いリズムを見せる場合もある

今回は、英語以外の言語の空耳作品をお年玉としてお届けする。

実際の映像はこちら ↓

https://drive.google.com/file/d/1szdQhePeRc0lOM09BWh5_-W8m4gwgKAZ/view?usp=sharing

ちなみに、映像には以下の空耳が入っている



英語よりも日本語っぽく聞こえる場合もあり、おもしろい。
音のリズム(や特徴)が日本語に近いのだろう。


≪補足映像資料≫

1.中国語の四声についての資料。是非、ネイティブの発音を聞いてみてほしい。




(to be continued)

**** <補足コメント> ****

お正月といえばお笑いである。

お笑いの中には言語のリズムを笑いにしているものも多い。
タモリさんの「4か国語麻雀」などはよく言語のリズムの違いを捉えている。



個人的には、韓国語のリズムを用いたこの ↓ ネタが好きである。



この ↑ ネタの映像は上で紹介したサイトで見れるので、ぜひ、見てほしい。


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プロフィール
スケロック・ホームズ
スケロック・ホームズ
コンサルタント言語探偵 (自称)

我々が言葉を用いるときに、暗黙のうちに、何らかの規則に従っていることは明らかである。しかし、一体どんな規則に従っているのであろうか?たとえば、
「人の悪口は言わない!」の「人」は「他人」のことである(=「他人」の悪口は言わない!)
「人の悪口を言うな!」の「人」は「自分」のことを指せる(=「俺」の悪口を言うな!)

なぜ、「人」が「他人」も「自分」も指せるのかを説明することは難しいが、日本人ならいとも簡単に使える。

規則をはっきり意識できない、説明できないのに使える。

ここに「ヴィトゲンシュタインのパラドックス」が存在する。

言語は面白い。そのなぞ解きはさらに面白い。

The only promise a puzzle makes is an answer.

誰に頼まれることがなくても、言語の謎を解明し続けるが、依頼はいつでも受け付けている。

There's nothing more hazardous to my health than boredom.