映画字幕の第一人者に、戸田奈津子さんがいる。

戸田さんは字幕について、以下のように語っている。



つまり、「言いたいことを、その場面状況に合うように適切に訳す」ことが大事になる。

これは、まさに「ライティングやスピーキング」などのアウトプットに求められる能力である。
そのため、日本の映画に英語字幕をつける作業は、英語のアウトプット力を養う最高の「訓練」になるといえる。

ということで、今回も日本の映画の英語字幕についてみていく。


11. Gachi-boy

今回、紹介するのは佐藤隆太さん主演の映画「ガチ☆ボーイ」である。

この映画にも英語字幕がついている。



この映画は、寝ると昨日の記憶がなくなってしまうという記憶障害をもつ青年が、「生きた証」を残すために、大学でプロレスを始めるという「青春ガチンコ」映画である。



笑いの中に感動もあり、個人的にも大好きな映画である。

今回は、この映画を象徴するセリフを取り上げる。



「自分の記憶に残らなくても、みんなの記憶に刻んでやれよ、お前の試合」

このような「カッコいい」セリフをその「カッコよさ」を損なわずに英訳する必要がある。

この点について戸田さんは次のように言っている。



この戸田さんの言葉を借りるなら、「映画の雰囲気をなるべくそのまま伝えられる英語力が要求される」ことになる。

上のセリフは、助動詞のmayとcanをうまく使い分け、さらに「記憶に刻む」にburn という動詞を選択し、次のように英訳されている。



今回は、'burn into' を取り上げる。

‘burn into~’ を日本語に訳すと「焼きつける」となる。

つまり、英語の前置詞のintoは、日本語では動詞の「つける」で訳される

このように、英語は前置詞を効果的に使うので「前置詞言語」とよばれる。
一方、日本語は動詞を効果的に使うので「動詞言語」とよばれる。



そのため、英訳の際に、日本語の動詞を英語の前置詞を効果的に使って英訳すると、シンプルで英語らしい表現になる



さらに、次のような表現も可能である。



特に、移動の際の「経路(=通り道)」は、英語の前置詞を使って効果的に訳すことができる





このように、品詞(前置詞や動詞)という観点から、英語らしさ/日本語らしさを見ていくのも言語学的に面白いテーマである。

さらに考察を続けていくことにする。


(to be continued)


*****「補足資料」 ****

今回取り上げたシーンの英訳を実際に確かめてみたい人はこちら ↓
(3分ほどのシーンをあげているので、他の英訳もチェックしてほしい。)

https://www.amazon.co.jp/clouddrive/share/H7C1ZM0WdNX5yfZieHXRbX7i3FlFQ0v1ajc4v6Hu0jV


ちなみに、「ガチ☆ボーイ」の予告編はこちら↓のサイトで見られる。

https://www.youtube.com/watch?v=wx4oVZpa9Vk

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スケロック・ホームズ
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コンサルタント言語探偵 (自称)

我々が言葉を用いるときに、暗黙のうちに、何らかの規則に従っていることは明らかである。しかし、一体どんな規則に従っているのであろうか?たとえば、
「人の悪口は言わない!」の「人」は「他人」のことである(=「他人」の悪口は言わない!)
「人の悪口を言うな!」の「人」は「自分」のことを指せる(=「俺」の悪口を言うな!)

なぜ、「人」が「他人」も「自分」も指せるのかを説明することは難しいが、日本人ならいとも簡単に使える。

規則をはっきり意識できない、説明できないのに使える。

ここに「ヴィトゲンシュタインのパラドックス」が存在する。

言語は面白い。そのなぞ解きはさらに面白い。

The only promise a puzzle makes is an answer.

誰に頼まれることがなくても、言語の謎を解明し続けるが、依頼はいつでも受け付けている。

There's nothing more hazardous to my health than boredom.