国が違えば、「誉め言葉」も違ってくる。

たとえば、日本では「顔が小さい」は誉め言葉であるが、ドイツでは「脳みそが小さい(=バカ)」という「ののしり言葉」になるそうだ。



今回は言葉における丁寧さ (politeness)について考察していく。


9. politeness (want/would like to)



ここでのポイントは、英語では相手に何かを勧める際にwant / would like to (~したい)を使って、相手の気持ちを確認する表現が可能なことである。



これに対して、上の英語を日本語に「直訳」した「紅茶が欲しいですか?」という表現は、失礼な印象を与える。

この点に関して、日英比較の観点から、以下のような指摘がある。
(『英語教師が知っておきたい 日本語のしくみ』 高嶋幸太 著より)



他の例もみてみよう。



この場合も、Would you like to come with me?をそのまま訳して「一緒に来たい?」というと、「来たいなら、一緒に行ってあげてもいい」というニュアンスが出るため、失礼な言い方になる。

事実、上の英文は「一緒に行きませんか?」という訳になっている

さらに、英語では以下のような表現も可能である。



この例の「直訳」は特に失礼である。
なぜなら、「私に窓を閉めてほしい?」というのは、「閉めてあげてもいい」というかなりの「上から目線」になるからである。

しかし、‘Would you like me to~’ は「自分から率先してやっている」というニュアンスが出るとのことである。



さらに、この点に関して、以下の面白いエピソードが紹介されている。
(『日本人の英語表現』 T.D・ミント 著より)



つまり、相手に何かを勧める場合に、英語ではwant/would like toを使っても失礼にならないが、日本語で「~したい/~ほしい」を使うのは失礼になる。

「なぜ、日英語でこのような差がでるのだろうか?」




この問題は、「相手の気持ちにどこまで踏み込めるか」の違いから説明できる。

たとえば、英語と日本語では「感情を表す形容詞」に関して違いがみられる。

1.He is sad.
2.??彼は悲しい。 (「彼は悲しそうだ」ならOK)

1にあるように、英語では he is sad.といえるが、これを2のように「彼は悲しい」と訳すと変である。
なぜなら、他人の気持ちを「勝手に決めつける」のは変だからである
そのため、he is sadは「彼は悲しそうだ」と訳される。




このことからも、英語は日本語よりも「相手の気持ちに踏み込める」ことがわかる。

そのため、このような表現も可能になる。
(映画 『スパイダーマン2』より)



このシーンを映像で確認したい人は、こちら ↓

https://www.amazon.co.jp/clouddrive/share/d2G5n3QXWFNWTuMWLV6unPocxoU333c9pyVxdzzhjlG

なお、映画では ‘You might want to’は「これも」と意訳されているが、お客に対しても使える丁寧な表現であるというのがポイントである。

これを「直訳」すると、「あなたは~したくなるかもしれません」となり、相手の気持ちをこちらが操っているような「ありえない」表現になってしまう。
しかし、英語ではYou might want to~. は丁寧な表現とされている。



このように、相手の気持ちまで踏み込めるかどうかで、丁寧さ(politeness)の表し方も異なってくる。



丁寧さについては、さらに考察を進めていくことにする。


(to be continued)


***** <補足コメント: 丁寧さに関する共通性>****

丁寧さに関しては、言語間の違いにのみ焦点が当てられることが多いが、共通性もある。

今回、英語は相手の気持ちに踏み込める度合いが強いことをみたが、度合いが強いだけで、英語でも「相手の気持ちを尊重」する方がより丁寧になる。



さらに、英語では、何かを依頼する場合、willよりcanを使った方が丁寧であるとされている。
その理由は、willは「意志」を表すため、‘Will you …?’を使うと相手は「~する気持ちはあるか?」と聞かれていることになり、依頼を断りにくくなるからである。



つまり、「相手の気持ちに踏み込む度合い」に違いがあったても、「相手の気持ちを尊重する」ことは日英語ともに丁寧さにつながる

このように、言語間の「共通性」から丁寧さを捉えてみるのも面白いだろう。


< 2019年07>
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プロフィール
スケロック・ホームズ
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コンサルタント言語探偵 (自称)

我々が言葉を用いるときに、暗黙のうちに、何らかの規則に従っていることは明らかである。しかし、一体どんな規則に従っているのであろうか?たとえば、
「人の悪口は言わない!」の「人」は「他人」のことである(=「他人」の悪口は言わない!)
「人の悪口を言うな!」の「人」は「自分」のことを指せる(=「俺」の悪口を言うな!)

なぜ、「人」が「他人」も「自分」も指せるのかを説明することは難しいが、日本人ならいとも簡単に使える。

規則をはっきり意識できない、説明できないのに使える。

ここに「ヴィトゲンシュタインのパラドックス」が存在する。

言語は面白い。そのなぞ解きはさらに面白い。

The only promise a puzzle makes is an answer.

誰に頼まれることがなくても、言語の謎を解明し続けるが、依頼はいつでも受け付けている。

There's nothing more hazardous to my health than boredom.