The hound of the books & movies (Hero)

映画の字幕には「1秒4文字」という制約がある。
(この点に関しては、The hound of the books & movies (Frozen)を参照)

もし、原作の英語に「忠実に訳す」となると、字幕が長すぎて読み切れないままシーンが変わってしまうことにもなりかねない。

The hound of the books & movies (Hero)

そのため、意訳や要約で対応することが求められる。

具体例をみてみよう。
(『字幕屋のホンネ気に』太田直子 著より)


The hound of the books & movies (Hero)


「どうしたんだ」というセリフですら、場合によっては短縮しないといけないというシビアな世界であるが、逆に言えば、「シンプルかつ的確に」伝えるいい訓練にもなる。

上の3つのセリフは指定された字数でいうと、次のようになる。

The hound of the books & movies (Hero)

日本語の場合、3つの文字(漢字、ひらがな、カタカナ)をもつため、「字幕に向いている言語」といえる。

たとえば、漢字を使って「文字数をかせぐ」こともできる。

これに対して、英語はアルファベットのみであるため、字幕つくりは難しい。

今回は、日本の映画の英語字幕についてみていく。


10. Hero

キムタク主演の映画「Hero」には英語字幕がついている。

The hound of the books & movies (Hero)


今回は、この2つの場面の英訳を取り上げる。

The hound of the books & movies (Hero)


①「こんなところに後頭部を打ち付けたら、死んじゃうよな」

上の文は、「こんなところに~たら」をifを使って訳すこともできる。

しかし、映画では「文脈」を効果的に使い、英語らしく訳すことが重要となる。

この場合、「後頭部を打ち付けた」ことは前のシーンで分かっているため、そのことを代名詞のthatを使って表し、次のように英訳されている。

The hound of the books & movies (Hero)


英語では「原因と結果」を表す場合、原因を主語にした「無生物主語」が好まれる。

The hound of the books & movies (Hero)

今回の英訳では、「こんなところに後頭部を打ち付けたら」という条件節を主語 (= that)にした無生物主語文が使われているが、このようなパターンの文は英語ではよく使われる。

The hound of the books & movies (Hero)


② 「この車を処分していますよ」

上の文には、2つの意味がある。

(i) 自分で車を処分した
(ii) 誰かに車を処分してもらった

この場面では(ii)の意味であるため、次のように英訳されている。

The hound of the books & movies (Hero)

このように、誰かにしてもらったことを表す場合は、haveを使った「使役文」で書く必要がある。
もし、ここを He demolished his car.としてしまうと、「自分で処分した」という意味になってしまう。

日本語では、たとえ誰かにやってもらった場合でも、「~してもらった」と言わずに、「状況」から意味を理解するのが普通である。

たとえば、誰かに「髪を切ってもらった」場合でも、「髪を切った」といえる。

The hound of the books & movies (Hero)

しかし、英語では「切ってもらった」場合はhaveを使って表現する。

The hound of the books & movies (Hero)
The hound of the books & movies (Hero)


このような日英語の差は言語学的にも面白いテーマである。

さらに考察を続けていくことにする。


(to be continued)

*****「補足:吹き替えと印象」 ****

今回取り上げたシーンの英訳を実際に確かめてみたい人はこちら ↓

https://www.amazon.co.jp/clouddrive/share/Qm3Ox4nymDZzIz7sr4gQ4FRUTN95Z4e6D9YtgayjZSV

「Hero」は、英訳がすごくうまい(上から目線)のと、キムタクのカッコよさがよく分かる、いい映画である。

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我々が言葉を用いるときに、暗黙のうちに、何らかの規則に従っていることは明らかである。しかし、一体どんな規則に従っているのであろうか?たとえば、
「人の悪口は言わない!」の「人」は「他人」のことである(=「他人」の悪口は言わない!)
「人の悪口を言うな!」の「人」は「自分」のことを指せる(=「俺」の悪口を言うな!)

なぜ、「人」が「他人」も「自分」も指せるのかを説明することは難しいが、日本人ならいとも簡単に使える。

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