次のなぞなぞは、オランダのなぞなぞである。
(『つい話したくなる世界のなぞなぞ』のり・たまみ著 より)




このなぞなぞにはコップの大きさは関係ない。

ポイントは「空(から)のコップ」ということである。



なるほど!である。

しかし、言葉にはこのような厳密さがなく、非常に柔軟である。
というのも、次のような言い方が可能であるからだ。

「空のコップが水でいっぱいになった」

ここでは、水がいっぱい入るまで「空のコップ」とみなしている。

このような柔軟さによって、1つの単語が複数の意味をもつことも可能になる。

今回は、多義語 (polysemy)についてみていく。


8. Polysemy or not



複数の意味をもつ単語では、「連想ゲーム」のようなことが起こっている場合が多い。

たとえば、handには以下のような意味がある。



handの場合、「連想ゲーム」が比較的簡単である。
(『英単語の世界:多義語と意味変化から見る』寺澤盾 著 より)




ちなみに、handとbananaの関係は密接である。
(『英語語源辞典』宮本倫好 著 より)



しかし、「連想ゲーム」が難しい単語もある
それが、よく「同音異義語」として例に出されるbankである。



確かに、「銀行」と「土手」は関連がない。
しかし、両者は同じ語源をもつ
(『語はなぜ多義になるのか-コンテキストの作用を考える-』中野弘三 (編集) より)




つまり、今ではその関連性が分からなくなったパターンである。

そして、「銀行」も「土手」ももとはbankの語源から派生している意味なので、bankは同音異義語ではない

実は、このパターンには「それはないだろ!」と、つっこみたくなるものも多い。
たとえば、secondである。



確かに、「2番目」と「秒」は関連がない。
しかし、この2つは関連している
(『英語の語源のはなし』佐久間治 著 より)



つまり、もともと「秒」という単位がなかったため、「分」という単位をもとにして、次のように言っていた。

second minute = 分の2番目の単位(=秒)

それが、言語の「経済性」が働き、最初の語 (=second) だけを言うようになったため、
本来、「秒」とは無縁のsecondに白羽の矢が立ったというストーリーである。

ここまでくると、もう連想しようがないが、second minuteで「秒」を表していたため全くの無関係でもない。

以上のことをまとめると、多義語では「連想ゲーム」という意味拡張が起こっていることになる。
そして、この意味拡張には連想が簡単なものと連想が難しいものの2つのパターンがある。



上であげた単語は、もとの意味から複数の意味ができただけなので、同音意義語とは区別される

同音異義語の場合は、意味がそもそも関連していないし、語源的にも異なる
たとえば、airがあげられる。




この場合、違う意味を表す単語がたまたま音が同じになっただけである。





このairのような単語を同音異義という。

しかし、同音異義語の中には、少し複雑なものがある。
それは、意味的に似ているのに、関連していない語である。
たとえば、earがある。




上にあるように、「耳」を表すearと「穂」を表すearは語源も違う別の語であるが、
2つは形や性質が似ているから心理的に同じものと思ってしまう

これを「心理的関連性」というが、要は比喩(メタファー)的な連想が可能であるため、多義語と捉えてしまうパターンである(このパターンは比較的少ない「特殊」な例である)。




語の多義性は面白いテーマであり、さらに追及する価値がある。


≪補足:水滴の量≫

冒頭のオランダのなぞなぞは水滴に関するものであったが、「水の1滴」の量は基本的に約0.05ccである。
つまり、20滴集まって、やっと1ccとなる。



よって、500ccのペットボトルを飲んだとしたら、1万滴の水を飲んだことになる(500×20 = 10,000滴)。



この1cc=約20滴を覚えておくと、便利である。



目薬などを買う際に、イメージがわくだろう。

< 2019年10>
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スケロック・ホームズ
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コンサルタント言語探偵 (自称)

我々が言葉を用いるときに、暗黙のうちに、何らかの規則に従っていることは明らかである。しかし、一体どんな規則に従っているのであろうか?たとえば、
「人の悪口は言わない!」の「人」は「他人」のことである(=「他人」の悪口は言わない!)
「人の悪口を言うな!」の「人」は「自分」のことを指せる(=「俺」の悪口を言うな!)

なぜ、「人」が「他人」も「自分」も指せるのかを説明することは難しいが、日本人ならいとも簡単に使える。

規則をはっきり意識できない、説明できないのに使える。

ここに「ヴィトゲンシュタインのパラドックス」が存在する。

言語は面白い。そのなぞ解きはさらに面白い。

The only promise a puzzle makes is an answer.

誰に頼まれることがなくても、言語の謎を解明し続けるが、依頼はいつでも受け付けている。

There's nothing more hazardous to my health than boredom.